2008年7月19日、スタジオジブリ制作の長編アニメ『崖の上のポニョ』が公開された。公開3日間で125万人を超える入場者があり、興行収入は15億7500万円に達したという。
 この作品は、宮崎駿氏が原作・脚本・監督を担当し、鈴木敏夫氏がプロデュースを担当しているが、これまでも両者が組んだ『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』はいずれも大ヒットを記録した。
 作家とプロデューサーがそれぞれの立場で最大限の力を発揮し、さらに両輪となって興行を成功させた好例だ。

作品が社会に生かされている状況こそ、作家と社会の両方にとって有益な状態

 本学にも作家志望の学生が多数いるが、作家として活動するのであれば、大きな意味で作品を社会に還元していくことが必要だ。つまり、作品が社会に生かされている状況こそ、作家と社会の両方にとって有益な状態である。したがって、作家にとって社会の架け橋となるプロデューサーは重要なパートナーだ。作家が作品を作り、プロデューサーが作品を社会に生かす状況を創り出す。


 では、作品が生かされている状況とはどのようなときを指すのか。私は、文化、教育、経済の3つの分野のいずれか、あるいは複数に貢献している状態を指すと考える。
 今回、帝塚山大学の「高度人材※」による久保田裕三君(帝塚山大学博士課程前期1年生)を受け入れた理由のひとつは、文化、教育、経済の3分野において、作品を生かすための著作権の解釈、契約のあり方について考える機会になると判断したからだ。
 久保田裕三君には、本学が実際に企業と連携し教育プログラムの一貫として作品(あるいは商品)を制作しているケースを元に契約のあり様に考えてもらった。久保田君は、文化、教育、経済それぞれの分野の慣習や著作権における認識の違いを熱心にヒアリングし、それらを理解したうえで、新たな契約書を提案してくれた。分野の壁を越え新たな世界を切り開こうと契約書を提案してくれた久保田君の姿勢は、イノベーションが求められる時代のまさに「高度人材※」となろう。特に経済分野における作品の生かし方は、少子高齢化による人口減少と経済規模の縮小が懸念されるわが国の今後を占う意味で非常に重要だ。作品をプロデュースする能力はますます求められる。さらに言うと、単体の作品だけでなく、その作品を中心としたビジネスモデルを構築する能力が求められている。
 アメリカのシリコンバレーに本社を置くデザイン・コンサルティング会社IDEOは、イノベーションを生み出す企業として有名であるが、近年経営方針をデザインの請負からビジネスモデルの創造に転換しているという。個別のプロダクトを作るよりも新しい市場を作った方がビジネス規模が大きくなるからだ。

著作権とビジネスの間に築かれる新たな関係

 アップルグーグルは、iTunesYouTubeの成功により著作権とビジネスの間に新たな関係を築こうとしている。ジェローム・マッカーシーは有名な「4P」でマーケティングを考えよと言ったが、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の関係の中に『著作権』をどのように組み込むかはビジネスモデルを構築する上でとてもスリリングな課題だ。
 しかし、帝塚山大学の「派遣型高度人材育成協同プラン※」による教育実践などにより、このスリリングな課題を乗り越えることのできる人材が育成されることだろう。
 本学の才能溢れる作家志望の学生が社会で活躍するためにはプロデューサーが欠かせない。著作権とビジネスのスリリングな関係を乗り越える「高度人材」こそ、これからの時代を担うプロデューサーだ。本学も協力を惜しまないし、そのような『高度人材』が巣立っていくことを願ってやまない。

※ 前「派遣型高度人材育成共同プラン」、現「文科省産学連携による実践型人材育成事業『マルチプレイ型コンテンツ知的専門人材育成』」(平成18年度採択)

『著作権とビジネスのスリリングな関係を乗り越える高度人材への期待』
京都造形芸術大学 芸術学部 准教授 
プロジェクトセンター 副センター長 乾 明紀

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